2026年10月25日(日)、京都観世会館で開催される「第68回 京都観世能」で、能「攝待(せったい)」のシテを勤めます。
本公演に向けて、「攝待」の魅力や謡の難しさ、登場人物の心情、舞台で注目してほしいところについて井上嘉介がお話しします。
出典 京都観世会館会報誌令和8年8月号
井上嘉介が語る 能「攝待」― 謡と心で描く、静かな悲しみ
2026年10月25日(日)に京都観世会館で開催される「第68回 京都観世能」で、井上嘉介が能「攝待(せったい)」のシテを勤めます。
「攝待」は、華やかな舞や大きな動きが少なく、謡を中心に物語が進んでいく作品です。
二人の息子を戦で失った母、父を失った幼い孫、そして自らのために命を落とした家臣の遺族と向き合う義経。それぞれの思いをどのように舞台で表現するのか。
井上嘉介が「攝待」の難しさと見どころ、そしてこの曲に向き合う思いを語ります。
「攝待」は、とにかく謡が難しい
――「攝待」という曲について、まずどのように感じていますか。
「攝待」は、とにかく謡が難しい。謡が大事です。
型という型はほとんどありません。全員が謡で物語を進めていきます。
老婆(シテ)は、二人の息子を戦で失った悲哀。
孫(子方)は、幼いながら父や叔父の敵を討とうとする決意。
義経(ツレ)は、自らの悲運を嘆きつつ、老婆や子供をいたわる心。
弁慶(ワキ)は、豪放でありながら老婆に対する思いやりを持っています。
そして地謡は、その場の空気にさまざまな緊張感を与えます。
それぞれの立場、それぞれの心を、謡によって表現していかなければなりません。
動かないからこそ、わずかな動きが大切になる
素謡でもまず出ない、本当に難しい曲です。
舞などの動きがあればまだしも、全員がほぼ座って謡をします。
ですから謡が難しいのはもちろんですが、少しの動きも疎かにはできません。
動かないからこそ、微妙な動きが大事になってきます。
京都観世会では、およそ80年ぶりの「攝待」
――京都観世会の催しで「攝待」が上演されるのは珍しいのでしょうか。
昭和21年11月例会で、杉浦友雪(義朗)先生が舞われています。
戦後間もなくですね。
まだ現在の京都観世会館もできていませんから、金剛能楽堂ですね。
およそ80年ぶりでしょうか。
本当に上演されない曲です。
「勤めるなら、今しかない」
今回、厚かましくも舞わせていただきます。
とても勇気が要りますし、謡だけでどれだけ表現できるかという難しさがあります。
それだけではありません。
幕から出て舞台に入り、一旦舞台に座ると、ほぼ終曲まで座っていなければなりません。体力も相当必要になってきます。
かといって、元気いっぱいの若い時に舞える曲でもありません。
とても悩みましたが、
「勤めるなら、今しかない」
と思い、舞わせていただくことにいたしました。
「攝待」では、弁慶が重要な役割を担う
――ワキの弁慶が、とても重要な役だとお聞きしました。
そうなんです。
ワキがとても重要で、義経以下の従者と、老婆・子方とをつなぐ要になります。
ワキが引っ張ってくださることで、舞台上の悲しみが増幅されるわけです。
旅立つ義経一行と、残される老婆と孫
最後に義経一行が出発しようとすると、子方が親の敵を討つために同行を願います。
一瞬、困った空気が全員に流れます。
しかし弁慶が機転を利かせ、
「山伏の衣装を整えたなら迎えに来ましょう」
と言って旅立ちます。
そこに残された老婆と孫。
ぽつんと佇む二人。
子供まで争いに引っ張り込むわけにはいかない優しさ。
寂しく終わる中に、演者それぞれの人となりが、お客様の心の中に少しでも残るようならば幸いです。
能「攝待」をご覧になる方へ
「攝待」は、大きな舞や華やかな動きで見せる曲ではありません。
二人の息子を失った母、父を失った子、自分のために命を落とした家臣の家族と向き合う義経、そして両者をつなぐ弁慶。
それぞれの人物が抱える悲しみや思いやりが、謡とわずかな動きによって静かに描かれていきます。
舞台をご覧になる際には、ぜひ一人ひとりの謡、言葉、そして動きの中に込められた「心」に耳を傾けていただければと思います。
井上嘉介(観世流シテ方)
能「攝待」とは
「攝待(せったい)」は、源義経一行と、戦で息子を失った老女、その孫との出会いを描く能。華やかな舞よりも謡を中心に、それぞれの悲しみや思いやりを静かに表現する作品。
第68回 京都観世能 公演情報
| 公演 | 第68回 京都観世能 |
| 日時 | 2026年10月25日(日)11:00開演 |
| 開場 | 10:00 |
| 終演予定 | 17:30頃 |
| 井上嘉介出演演目 | 攝待 |
| シテ | 井上嘉介 |
| S席(1階正面指定席) | 13,000円 |
| A席(1階脇正面中正面指定席) | 11,000円 |
| B席(2階自由席) | 6,500円 |
| 会場 | 京都観世会館 京都市左京区岡崎円勝寺町44 |





